病は食から(3)

 テレビに出演してから、特に私のところに相談に来られる方が多くなり、大勢の方とお話しましたが、大方の人が、野菜ぎらいでお肉が大好きといわれます。はやり、そのあたりに何か発癌の原因があると思います。
 私も例に洩れず、肉食が好きでした。和食党の主人とは反対に、私はこってりした洋風のおそうざいが好きで、栄養のバランスが崩れていたのです。そのうえ、三食昼寝つきの主婦の座にどっかりと胡坐をかいて、運動不足のせいもあって、どんどん太って、行きついたところが癌という死の宣告だったわけです。

 今、アメリカでは、日本食ブームだと聞きます。欧米人は、元来狩猟民族で肉食に適応できる体にできているので、肉食をそれほど避ける必要はないと思いますが、日本人は昔から雑穀や野菜を食べて暮らしていた民族で、肉食には合わない体にできているのだそうです。それを戦後何でもアメリカの真似をするのがよいことのように錯覚して、食事や生活習慣が欧米化してきました。また、戦争前後の貧しい時代を乗り越えて、高度経済成長化の波に乗り、おいしいものがいくらでも手に入る時代にもなりました。それと並行して、癌や糖尿病、心臓病など、いわゆる成人病の患者の数がどんどん増加しました。これはとりもなおさず、飽食の産物です。食生活が貧しかった頃は、今のように成人病は多くありませんでした。その貧しかった頃の、日本の食事が健康的であることに、欧米人の方が先に気がつき、実行し始めたのです。

 欧米人は、脚が長く胴が短く、日本人は胴長短足であるのは、腸の長さが違うからです。欧米人の腸は、大体3メートルから4メートルぐらいですが、日本人は7メートルぐらいが標準だそうです。日本人の腸はゆっくり時間をかけて、雑穀や繊維の多い野菜を消化吸収するのに都合よくできているのです。
 それなのに、繊維質の少ない肉や魚などを主とし、野菜をあまり食べなければ、腸の蠕動運動がうまくいかず、便通が悪くなります。食べた肉や魚が何日も腸内にとどまっていると、酸性腐敗便となり、宿便の原因にもなります。そういうよごれた腸から栄養を吸収しても、きれいな血液ができるはずがありません。血液のよごれが癌の原因ともいわれています。

 先日もまだ結婚前のお嬢さんが乳癌にかかり、今までの食生活のことを聞きますと、「好きなものばかり食べていました。こんなことになったのはみんな私のせいです」と泣いておられたお母さんがありました。「内職をしてやっと大きくして、お勤めに行くようになって、これからよいお婿さんを探して幸せになってもらいたかったのに」と涙をポロポロ流しておられ、私ももらい泣きしそうになりました。

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この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


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