主人へのつきぬ感謝(3)

 また入院してから見舞に来ない日が、一日もありませんでした。何も話すことはなくても、ただそばにいてくれるだけで心が安らぎました。食欲がない私に、少しでもおいしいものを食べさせようと、夕方のラッシュ時に、遠くまで私の好きなおすしを買いに行ったり、ホテルのレストランでおいしそうだったからと、高価なものを買って来てくれたり、本当によくしてくれました。

 飛行機に乗るのがきらいな私ですが、主人は、前から「一緒に外国旅行をしよう」といつもいっていました。
 子供も大きくなったし、これから二人で旅行もできるだろうと思っていたのに病気になってしまい、いつ行けるかわからなくなってしまいました。しかし、主人は、毎日、
「早く元気になれよ。元気になったら、銀婚式にはハワイへ行こう」
 と、いって励ましてくれていました。また、
「嫁入り前の娘が三人もいるのに、おまえがいなくなったら、どうして嫁にやったらよいのか、わし一人ではどうにもならないよ。絶対元気になってくれないと困る」
 と、よくいわれました。そして、
「わしの愛情で絶対治してやる。癌は、頑固な者がなるのだ。わしのいうことを素直に聞いていたら、絶対治る。素直になれ」
 と毎日いわれました。毎日毎日そういって励まされると、だんだん主人のいうとおりにしていたら治るのだ、素直にいうことを聞こうと思えてきました。そして今まで、くさいとかまずいとかいって飲まなかったものも、自分からすすんで飲むようになりました。

 頑固な私を、ここまで素直な人間にしてくれたのは、まさに主人でした。

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この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


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