告知の条件(3)

 告知をするには、
「家族にとってあなたがいかに大事な人間か。今死なれたら、あとに残った者がどんなに悲しむか。まだまだこの世に必要な人間なのだから、絶対元気になってもらわないと困る。家族皆で応援するから、頑張ってほしい」
 と皆で協力して、患者に闘病心をふるいたたせないと、いけないと思います。ただ告知をすればよいというものではありません。そのタイミングも大事です。家族の力強い支えがないとむずかしいことだと思います。

 どうぜ治らない病気なのだと、あきらめたら、それでおしまいです。でも、そう簡単にあきらめられるものでしょうか。死なれるのは困るが、お医者さんを頼りにするしか道がない。そのお医者さんが助からないというのだから、しかたがないと思うのでしょうか。

 その点、私は主人が、
「医者が助けられないのなら、自分で助けてみせる」
 と断言して、あきらめず努力してくれて本当によかったと思います。

 今、私は癌にかかったことを決して不運だったとは思っていません。むしろ主人が私をどれほど大事に思っていてくれたかがわかり、とても幸せです。
 それに近所の人、毎日、娘の分までお弁当を作って学校へもって来てくれたお友達のお母さん、お百度参りをしてくれた和歌山の叔母さん、朝夕、私の回復を祈ってくれた鎌倉の両親、遠いところ家事を手伝いに通ってくれた主人の姉、いろいろ癌によいという手を教えて下さった多くの方々-皆さんの心の暖かさ、親切さを知ることができたことも癌にかかったおかげです。これほど、皆さんの親切をありがたく感じたことは、ありませんでした。

 これからも、この感謝の気持ちを忘れず、あやうく落としかけた命を大切に、生きていきたいと思います。

ch4-21

この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


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