癌と知ってよかった(5)

 翌日は、せっかく東京に来たのだからと、練馬区のほうにいる私の叔母の家を訪ねました。この叔母は、私の亡くなった母の妹で、母が亡くなってからはめったに会うこともなく、過ごしておりました。昭和18年、母が亡くなってから30年間一度も会うことがなかったのです。ただ13年前、親戚の結婚式で、東京に来たとき、ホテルまで会いに来てくれたことがありました。
 叔父は、東京工大の教授をしていましたが、10年ほど前、50代で亡くなり、子供達も独立して、叔母は、今、一人暮らしをしています。

 長い間合わなくても、血の繋がりとは不思議なもので、会うとやはり叔母さんだという気がし、とても心が休まります。私が小さかったころの思い出話に、時間の過ぎるのを忘れてしまいました。名残り惜しいのをこらえて、夕方の新幹線で大阪へ帰りました。

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この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


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