再度のテレビ出演(4)

 父や母は、年に一、二回は大阪のほうへ来ます、しかし、私は、結婚してもう29年になりますが、その間5、6回しか里帰りしていないのではないかと思います。よく夏休みなどに子供と奥さんだけ里帰りして、ご主人は会社を休めず、働いているという気の毒な方を見かけますが、私は、主人一人残して里帰りをする気にはなれませんでした。ですから、行くときは”家族全員で”となり、何か特別な用事がないかぎりなかなか行けませんでした。

 久しぶりの里帰りで、話がつきませんでしたが、次の日大役を控えていることもあり、あまり夜ふかしはせず、早目に休みました。

 次の日、テレビ局には夕方7時頃までに行けばよいとのことでしたので、午前中は鎌倉の名所の散策をしました。東慶寺、円覚寺など、ゆっくり見てまわりました。どこへ行っても梅の花が満開で、よい香りが漂っておりました。リスがたくさんいて、とても人に慣れており、直接手からエサを食べるようなところもあり、楽しいひとときを過ごしました。
 実家が鎌倉にあるというのに、それらのお寺にはそれまで行ったことがなく、父と母が道案内してくれて、父は元気になった私をしきりにカメラに収めていました。一時は、もう二度と鎌倉の土を踏むことはないのでは、と思ったこともあったでしょう。それが、元気に一緒に歩いているのですから、父も感無量だったと思います。こんなに喜んでくれて、今さらながら、元気になれてよかったと思いました。

 親より先に死ぬことは、一番の親不孝だといっていた父に、こうして元気な顔を見てもらえて、何よりの親孝行になったと思います。

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この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


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