手術後の経過も順調(3)

 四日目の朝、おかゆと梅干の食事をすませしばらくしたら、便意を催してきました。

 排尿の心配はないのですが、大便のほうは看護婦さんの手を煩わさねばならず、いやだなと思ったのですが、我慢するわけにもいかないので、便器をもって来てもらいました。寝たままではできそうにないので、ベッドを起こしてもらいました。少し出たのでやれやれと思い、再び”ナースコール”のボタンを押そうとしたら、ベッドを起こしたひょうしに、そのコードがベッドから落ちてはるか向こうの壁のところに垂れ下がってしまったのです。

 個室に入れてよかったと思っていましたが、このときほど、一人でいる不便さを感じたことはありません。誰か来てくれないかと待っていましたが誰も来てくれず、しかたないので、とりあえずお尻を拭きました。それからくさいので、便器にふたをして、ベッドの上に置いたまま、じっとしていました。

 しかし、いつまでもこのまま待っているのもいやなので、廊下で足音がしたと思えば大声を出して助けを求めました。手術をして四日しか経っていない割には大きな声が出るものだと、自分でも驚きました。何人もの足音が忙しく遠のいて行きます。誰も気が付いてくれませんでした。が、やっと看護主任の方が私の声に気づき、「どうしたの?」とびっくりして入って来てくれました。「ボタンに手が届かなくて」といったら、「アラ、ごめんなさい」といって、便器を片付けてくれました。
 あれだけ大きな声を出しても、切り口は全然痛くはありませんでしたが、やはり上体を起こしているのはつらく、すぐベッドをもとに戻してもらいました。

 お昼頃、女の先生が回診に来て、切り口を止めてあるホッチキスのような金だけ取って下さいました。切り口は、糸と金具と交互に止めてありました。取るとき痛いかなと思ったのですが、ピンセットで上手にそっと取って下さり、チクッともしませんでした。取った後の消毒液のほうがしみて痛かったくらいでした。

 手術の次の日から毎日、看護婦さんが体を拭いて、ねまきを着がえさせてくれていましたが、そのとき横を向くのに傷口が痛かったのが、日に日に楽になりました。

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この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


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