『癌』がきれいに取れた(5)

 手術前のまだ六人部屋にいた頃、横のベッドに手術をした人がいたのですが、すごく痰がからみ、それを吐き出そうとすると切り口が痛むようで、見ているほうが、代わりに咳をしたいような気になったのですが、幸い私の場合、そんなこともありませんでした。
 ただ、じっと寝ているだけなら、切り口は全然痛くないのですが、吐くため、お腹に力を入れるとやはり痛みを感じました。

 手術中輸血もしたようだし、夜中には血漿も入れていたような気がします。看護婦さんが、点滴液が残り少なくなると、新しいのにつけかえに何回も来ていましたが、その中に、ビンではなく、ビニール袋のものがあったのを、うつらうつらしながら見ていました。
 長女は、点滴液がなくなる前に”ナースコール”のボタンを押さねばならないし、私が何回も吐いたりで、一晩中ほとんど寝ていなかったようでした。

 六人部屋だったら面会時間外は、手術当日でも家族の者は、帰らねばならず、個室に入ってよかったと思いましたが、治療費以外に一日15,000円の差額ベッド代を払わねばならず主人には申しわけない気持ちで一杯でした。

 夜、痛み止めと睡眠薬の注射をしたため、吐き気がしない間は、ぐーんと深い眠りにさそわれ、ときどき切り口が痛むのか、今が手術中なのだという錯覚を夢の中で覚え、目が覚めると病室にいるので、ああ手術はもうすんでいるのだとホッとしたり、朝まで夢と現実が混ざったようなおかしな気持ちでした。

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この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


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