『癌』がきれいに取れた(2)

 それからどのくらい時間が経ったのか-全然時間が経ったという気はしなかったのですが、頬をペタペタと叩かれて、ぼんやり気がつきました。
 熟睡して目が覚めたら、さっき寝たのにもう朝かと思うことを、健康な人なら体験したことがあるでしょうが、そんな感じでした。

 看護婦さんの、
「もうすみましたよ。よく頑張ったわね。」
 という声がしましたが、お腹を切ったという感じは全然しませんでした。
「あれ、手術はすんだのだろうか。これからなのだろうか。でも看護婦さんがすみましたよといっているのだから、すんだのだろう。それとも切らなかったのかな」
 などと、ぼんやり考えていました。

 口の中に、何か金具が入っていたのを取り出し、つばか吐いた物かわからないが、口の中に溜まっていたものをバキュームで吸い出してくれました。自分のベッドが横に運ばれていて、何人かの人が、「1、2の3」と掛け声をかけて、私をベッドに移し、ねまきを着せてくれたので、やっぱり手術は終わったのかと思いました。意識はまだとぎれとぎれで、すぐ深い眠りに入りそうになり、体は全然自由がきかず、されるがままという感じでした。

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この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


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