主人は家を売る覚悟だった(2)

 9月頃から飲んでいた利尿剤も効かなくなってしまいました。それまでは利尿剤を飲んで一時間ほどは尿の出もよかったのですが、薬を飲んでも一向に尿が出ないのです。もっと強力な利尿剤にして下さるかと思って先生に話したら、
「効果のないものを飲んでいても害になるだけだからやめましょう」
といわれ、どうなるのだろうと心配になりました。

 先生は腹水を抜くことによって、いつまでもつかわからないが、なんとか一日でも長く生きながらえさせなければと、考えておられたのでしょう。
「これから腹水を抜くことがあるので、お昼から来て下さい」
と、いっておられました。

 でも、溜まったら抜き、溜まったら抜きなどしていたら、体は衰弱していつかはだめになることは目に見えております。

 -いつ頃まで生きていられるのだろう。死ぬときって、どんななのだろう。でも、まだ歩けるのだから、もう少しはもつだろうか。もしかして急に悪くなってお正月までもたないかもしれない。年賀状を出してしまったあとで、もしものことがあっても、回収するわけにもいかない。年賀状を出すのはよしたほうがよいのではないかとか、とんでもないことばかりを考えていました。

 あと一年半で銀婚式を迎えられるのに、それまで生きているのは無理かな。でも生きていたいと、心は激しく揺れ動いておりました。

この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


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