主人は家を売る覚悟だった(1)

 主人は仕事どころではなくなりました。病院の先生からも「助かる見込みはない」といわれ、何かほかによい方法はないものかと、それこそ文字どおり東奔西走、いわゆる民間療法をあれこれ探しまわりました。
 また、神様にお参りしたり、車で何時間もかかる遠いところまで、ご祈祷をしてもらいに行ったりしていました。

 高価なゲルマニウムや”さるのこしかけ”など、どんどん買って来ました。後に主人は、
「もし、お金が続かなくなったら、家を売る覚悟だった」
 といっておりました。とにかく、お金がいくらかかってもよい、元気になってくれさえすれば、という一心だったようです。今考えても、個室の入院費、断食道場の費用など、随分かかったと思います。

 でも、お金のことは一言も私にいわず、一生懸命になってくれた主人に、本当に感謝しております。また、主人は何冊も本を買って来て、よいと思うことはなんでも試させました。彼岸花の球根をすりおろして足の裏に貼ってみたり、枇杷の葉には、アミクダリンという成分があり、それが癌に効くというので試したり。あるいは生姜湿布をしてみたり、ゆでたこんにゃくでお腹を暖めてみたり。あげ句の果ては、黒田式太陽光線がよいといって高価な機械を買って来たり。何かが効いてくれないかと、そりゃあ一生懸命でした。

 しかし、それでも腹水は増えるばかりで、11月頃には、ご飯を一口食べても、胃が圧迫され苦しくてたまらないようになり、また腹水を抜いてもらいました。

この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


ページの
トップへ