“注射づけ”に耐えて(3)

 急に腹水が減り圧迫されていた胃のあたりも楽になりました。丁度Sさんの奥さんがおすしをもって来て下さり、それをきれいに食べてしまい、自分でもよく食べられたものだと驚きました。

 ところが、しばらくすると、いつもとは比べものにならないほどのすごい悪寒が襲ってきて、布団をかぶって体を縮めていても、ガタガタ震えてどうしようもなくなりました。吐き気もするのですが、寒くて起きることもできません。一時間くらいじっと我慢していたら、今度は暑くて布団など着ていられなくなり、布団をはねのけたとたん、おいしく食べたはずのおすしを全部吐いてしまいました。いつになくたくさん食べたので、吐くのも大変でした。熱も40度くらいありました。先生に話したら、「せっかく腹腔内へ入れるのだからと少し量を多くしたけど、多すぎたかな」といっておられました。

 でもそれが効いたのか、それから腹水は日に日に減っていきました。この調子ならもうそろそろ退院できるかなと思っていたところ、先生に、
「大分元気になったから、近々手術をしましょうか」
 といわれ、びっくりしてしまいました。

 -もう退院できるかな、早く帰りたいとばかり思っていたのに、今から手術などしたら、一カ月以上は退院できないだろう。もうこれ以上の入院は耐えられない。そう思いました。だいたい二カ月目くらいが一番「帰りたい」と思う頃で、それ以上になると病院生活にも慣れて、それほど帰りたいとは思わなくなると、何年か後に聞いたことがあります。

 先生は、「このままではそのうち胸水まで溜まってくるかもしれないし、そうなったら今以上に苦しくなるから」とおっしゃいました。私も「今度は逃げられない」と、覚悟を決めました。

病室

この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


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