“注射づけ”に耐えて(2)

 利尿剤やピシバニールが効いてきたのか、腹水が減ってきました。食欲も少し出て、見舞に来てくれた方からいただいたメロンやカステラを少しずつ食べてみたりしました。病院の冷えた食事は、どうしても食べられませんでしたが、ときどき主人が大阪ミナミのおすし屋さんから買って来てくれるにぎりずしは、おいしく食べられるようになりました。

「食欲がなくても、なんでもよいから好きなものを少しずつ食べて下さい。点滴で栄養を補給するのは簡単ですが、点滴に頼るのはよくないから」
 と先生はおっしゃり、一度も点滴はしませんでした。

 また、先生は「気分がよい日は廊下を散歩したり、気晴らしに屋上へでも上ってみたらどうですか」といって下さり、私はこのぶんならもう退院も近いのだろうと思いました。十何年か前、お産でたった一週間入院しただけでも早く帰りたいと思ったほどの私ですから、二カ月もの入院生活でもうこのへんが限界だという感じでした。

 そんなある日、先生が「腹水を少し抜きましょう」といわれました。N病院でしたように、太いチューブを力まかせに、また横腹に突きさされるのか、いやだなぁと思いましたが、今度は麻酔もせず、超音波で見たりもせず、点滴の針の少し長いようなものに管をつけて、プスッと横腹に突きさしただけで、ポタポタと腹水が出てきました。 N病院ではさしこんだチューブが抜けないように皮膚に縫いつけたり、大層なことだったのですが、あまりに簡単にしてしまわれ、病院によってこんなにも方法が違うのかと驚きました。

 2000cc抜いたのですが、お腹の皮が少したぷんたぷんした感じになり、楽になりました。腹水を抜いた後、その針に注射器をつけかえ、腹腔内へいつも注射している量の10倍くらいのピシバニールを入れました。先生は、「そのほうがよく効くし、筋肉注射では、こんなに大量の注射液は入らないから」といっておられました。

注射

この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


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