不吉な予感(1)

 一人でじっと寝ていると、つまらないことを考えるものです。このままよくならずに死んでしまうのではないかとふっと不安になったり、私がいないくなったら、あとに残った家族はどうなるのだろう。家の中のことなど、娘達にもっとあれこれ教えておけばよかった……など、後悔の念にかられたりもしました。

 夜九時の消灯後、じっと目をつぶっていても全然眠れません。ずいぶん時間が経ったような気がして横の時計を見ても、5分か10分しか経っていないのです。ああ、まだ10時にもなっていない、朝まで長いなあと思いながら、じっと目をつぶっていて、やっとうとうとしかけると、見まわりに来た看護婦さんがドアをソーッと開けるのですが、その音でハッと目が覚めてしまい、それから明け方まで時計ばかり見ているといった日が続きました。しまいには時計にタオルをかぶせ見えないようにして、看護婦さんにも、深夜ドアを開けないようにお願いしました。しかし、それ以来、不眠症が癖になり、4年くらい眠れない日々が続きましたが、薬に頼りたくないので睡眠薬は一度も飲みませんでした。

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この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


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