お腹がペッチャンコになった(2)

 そして、いよいよ帰る日が決まり、体を慣らすためにと外泊が許されました。主人が迎えに来て、一時間ぐらい車に揺られて帰りましたが、大して疲れませんでした。私が帰って来たことを知って近所の方が、うれし泣きで目を真っ赤にして来て下さいました。私のことをこんなに心配して下さっていたのかと、とても有難く思いました。

 その中の一人の方は、お父さんを三カ月ほど前肺癌で亡くされ、お母さんも乳癌の手術をしておられ、癌と聞くと他人事とは思えないといっておられました。その方に、「もしものときは、断食道場に行けば治るという希望がもてるから、絶対、元気になってね」といわれ、皆のためにも絶対元気になって”生き証人”にならなければ、と思いました。

 --そして、あと三日で道場とお別れできるという日、主人と三越へ洋服を買いに行きました。季節は夏になっていましたし、あまりにも痩せて以前の洋服はブカブカで着られませんでした。腹水が溜まるだけでもどんどん痩せるのに、利尿剤で体中の水分をしぼり出し、そのうえ断食までしたのですから、無理もありません。元気だった頃の面影は、全くありませんでした。太っていた頃は痩せたいと思ったものですが、病気でスマートになるのはあまりうれしいことではありません。

 ただ、主人は、私が元気になったことがうれしかったのでしょう。ワンピースやスカートを何枚も買ってくれました。その主人の気持ちを、とてもうれしく思いました。ただ、その買物の車の中で、私は思いがけぬことを主人に聞きました。

「実は、今日Sさんのお葬式なのだ」

車中

この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


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