乗りかかった船(2)

 11月4日、再び手術室に入りました。今度は腰椎麻酔で、体をエビのように曲げ、背骨に注射をされました。この注射は、すごく痛いと聞いたことがあり、覚悟していたのですが、それほど痛いとは感じませんでした。
 注射したとたん、下半身がじわーんとしびれてきました。胸からひざのあたりまで消毒液がぬられ、冷たくて体が震えました。しびれていても、さわったり冷たいという感覚はありました。足のつけ根の切るところのまわりに、何本も麻酔の注射がされ、前のものよりこちらのほうが痛く感じました。メスがスーッと走るのがわかり、「先生、まだ少し痛い」といったら、看護婦さんが肩に睡眠薬の注射をされ、そのまま何もわからなくなってしまいました。

 気がついたら、切ったところを縫っているところだったようで、「痛い」とうわごとのようにいったような気がします。先生に、「あとで「意外と痛がりですね」といわれました。全身麻酔の方がずっと楽でした。
 やっと歩けるようになっていたのに、それからまた四日間、寝たきりで過ごさなくてはなりませんでした。

 その動注の機械は、大きさが縦17センチ、横11センチ、厚さ5センチぐらいのもので、毎日ねじを巻き、薬を少しずつ患部へ送り込むようになっていて、時計のようなカチカチという音がしました。最初は、それが耳ざわりで寝られませんでしたが、「半年ぐらい辛抱して下さい」と先生にいわれ、こうなったら我慢しなくてはと思いました。

 手術の後も、点滴で毎日抗癌剤を入れられ、白血球が1800まで下がってしまいました。そのせいか予定より1クール少なく終わることになりました。

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この記事は昭和62年10月発行の書籍『「主治医」はだんなさま』より転載しています。


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